Akira Wakita
Dismantling Awe

Dismantling Awe

Dismantling Awe - 畏怖の解体

人にとって畏怖の感覚が如何に大切であるか、また科学が如何にその感覚を解体してきたか。その解体の様子に立ち会うことを目的としたインスタレーション。

大谷石の洞窟内に、高さ13メートル、幅8メートルのスーパーオーガンジーを4層重ねることで巨大な彫刻を作り出した。その表皮には8Kの高輝度プロジェクタを用いたリアルタイムの流体シミュレーションが投影されている。風に煽らて揺らめくその姿はあたかも触手を伸ばす巨大生物のようだ。その巨大さと異形さに人々は戸惑い、恐れ、立ちすくむ。

しかし、数分も立たないうちに、作者が「この作品は風を可視化しているにすぎない」という説明をすることで、鑑賞者の態度は変化する。布に投影されている模様はその場で吹いている風のベクトル場であること、本作は風そのものを布の動きと8K映像で可視化した作品であること、そのような科学的な側面からの説明をする。すると、人々には理解が生まれ「なるほど」「面白い」「美しい」という感覚への変換が始まる。

しかし、最初に感じた形容し難い異形の感や畏怖の感覚はそこには残らない。それは科学的な説明によって解体されてしまった。最初に感じ取った無限の可能性をもった感覚の塊は霧散し、二度と取り戻すことはできない。我々は未知のものと向き合った時に、それを恐れる。しかし、科学的な説明によって一旦「解った」と感じてしまうと、以後はその現象を科学的な記号としてしか捉えられなってしまうのではかなろうか。

技術的側面としては、本作では、物理空間でのCG的アニメーションの実現を目指している。その場に吹いている風を、流体的な布の形とそこに投影されるシミュレーション映像の二つを用いて物理的にアニメーションしているのだ。オーガンジーの形状をカメラで取得しつづけ、三面図的にその曲面形状を分析することで、その場の風の流れを数値解析し、ベクトル場を逆生成している。この計算過程には扇風機を制御するマイコンのデータも合わせて用いられる。ここで生成されたベクトル場は8Kプロジェクタを通して4階層の布にプロジェクションされ、ボリュームをもった没入間のある風のベクトル場が生成される。

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龍雨図 - Dragon Rain

龍雨図 - Dragon Rain

禅宗寺院において、龍は守護神であり、僧に仏法の雨を降らせる存在とされています。本作では、非線形物理システム、デジタル映像技術、そして脳科学に基づくサウンドを駆使することで、現代ならではの「仏法の雨を降らせる龍」を描くことに挑戦します。建仁寺の法堂の天井に描かれた小泉淳作の『双龍図』と対をなす形で本作『龍雨図』は設置されます。

もう一つのチャレンジは、日本画における「写」の現代的なあり方の模索であり、「かさね」「うつし」「なぞらえ」といった日本古来の美意識の2020年代ならではの継承の型を提出することです。小泉淳作の『双龍図』を脇田玲なりに描くとはどういうことか。それを突き詰めた結果、単に小泉の絵のデジタルスキャンに加工を施すということではなく、龍を見るという行為の背後にある現象や原理、その場が発する気配といったもの、それ自体を描くことだと考えました。また、小泉の技法へのオマージュとして、スクリーンに墨色の映像を投影し、その上に何層も何層も白い粒子を塗り重ね、単純な白ではなく、単純な粒でもない、深みと広がりをもった色と形と動きをつくることを目指しました。

最後に。非線形の力学系が龍を創発するという現象はとても興味深く、ここに科学、芸術、宗教の横断的な対話を見ることができるかもしれません。シンプルなシステムが生み出す「無から有、有から無」への転換は、全てが一つであり一つが全てであるという禅の世界と共振します。

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Block Universe

Block Universe

時間から自由になるための祈りを込めて作った彫刻です。制作にあたり、アインシュタインのブロック宇宙論の概念、そして、彼が知人のミシェル・ベッソの死に際して送った次の言葉にインスピレーションを受けました。

"Now he has departed from this strange world a little ahead of me. That means nothing. People like us, who believe in physics, know that the distinction between past, present and future is only a stubbornly persistent illusion" -- Albert Einstein

ブロンズの部位は本作が設置される清春芸術村に吹き下ろす風を計測し、3次元の造形に変換したものです。存在感のある台座には約7000万年前の白亜紀前期の蛭川石を用いました。この作品には過去、現在、未来の時間が同居しています。そして、未来の私のお墓でもあります。

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